モノと暮らし 鶴岡発ウェブマガジン

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生きとし生けるものの象徴である「お花」を通したコミュニケーションを


ここに行けばワクワクとしたお花の出会いがある。それだけではなくお花から広がるモノやコトとの出会いを楽しめるお店……『SunLips』は、お花のセレクト、ディスプレイのセンスは言うまでもなく、ストーリーある雑貨も充実、お客様とお花の世界をつなワークショップを開催するなど、お客様の心を捉えて離さない魅力が詰まったお花屋さんです。

お花の持つ美しさはもちろん、命の象徴としてのお花の魅力を伝えていく場でもある『SunLips』。オーナーの五十嵐綾さんにお話しを伺いました。

五十嵐綾(SunLips オーナー)
山形県鶴岡市出身。高校卒業後、生花市場の花部門に就職。2008年独立。フランスで開催されたフラワーアレンジメント大会への出展経験を持つ。
近年は、生命を扱っているにも関わらず商売の都合によって廃棄しなければならないという矛盾に違和感を覚え、廃棄物やムダ削減に向き合うなど、「フラワーショップ」の枠に収まらない活動も行っている。

花のエネルギーで満たされる場所

店先から戸外へ溢れる鉢ものの植物たちに出迎えられて店内へ一歩足を踏み入れると……吹き抜けの開放感ある空間。まず視界に飛び込んでくる正面のロングテーブルには、古びた趣きのあるガラス瓶に生けられた季節の花々が所狭しと並んでいます。その光景はただただ壮観。視覚に飛び込んでくる花々の彩りや、香気に満たされて、訪れる人たちの心を一瞬にして捉えてしまうファンタスティックな空間です。

鶴岡駅の近くにお店を構えて16年目。その数字だけを耳にすると、「老舗」とまではいかなくても、それなりに歴史を重ねたお店の雰囲気を想像してしまいそうですが、『SunLips』は驚くほどまったく古びていない。いつ伺ってもお花の生命力で満たされていて、訪れた人たちが元気になって店をあとにする。鶴岡の小さなパワースポットと言えるかもあるかもしれません。

「『SunLips』という店名は太陽とチューリップ、自分の好きなもの同士の名前をくっつけただけの単純なものなんです」 店名の由来について、オーナーの五十嵐綾さんはやや自重気味に話ししてくれましたが……チューリップのような可憐なお花のひとつひとつの個性が際立つ感じがありつつ、お店全体にエネルギー満ち溢れるところはまさに太陽のようでもあり。明るくて、はつらつとした魅力いっぱいの綾さんのパーソナリティもあいまって。「名は体を成す」、素敵なお店を体現している店名だなとも思うのです。

ピン!ときたら、すぐ行動のお店作り

「特に花屋を目指していたわけではないんですよ」と話される綾さん。部活にのめり込み、特に将来のことを考えていなかった高校時代、目をかけていただいた方から誘いを受けたご縁で生花市場の花部門に就職する流れに。そんなきっかけで足を踏み入れたお花の業界でしたが、子どもの頃から土いじりや外遊びが好きだった記憶がよみがえりつつ、何より人が好きだったという綾さんが、お花を通して想いを伝え、何より人が喜んでもらえる仕事の魅力にどんどん魅了されていきます。

仕事が充実してきた入社8年目の頃、勤めていた会社が倒産。しかもご結婚もされていて、第二子がお腹に宿っているというタイミングでしたが、臆することなく独立の準備を進め、現在の場所にお店を開業させたのは24歳の頃。その行動力には尊敬しかありません。

花屋さんといえば、鮮度保持のため店の奥にキーパーと呼ばれるガラスの冷蔵庫を配し、バケツを並べてお花を保存するようなスタイルが当たり前だった頃、お花の見せ方にもこだわりつつ、大切な方へのギフトとして選ばれるシーンが多いお花だからこそ、一緒に手にとっていただけるような雑貨類も充実した品揃えに。それまでの鶴岡にはなかったセンスあふれるお店となりました。 まだ右も左もわからない若い時期にスタートしたからこそ、花屋さんとしての歩みも一歩一歩。年月を重ねる中で、東京の問屋さんの方から好みのお花を仕入れられるようになったり、近県のお花農家とのご縁も少しずつできてきたり。次第に『SunLips』にしかないお花のセレクトが確立されていったとのこと。たくさんの人のご縁に支えながら、学びながら実践してみることの繰り返し。「人が好き」という綾さんのパーソナリティは、多くの人を惹きつけつつ、気が付くと素敵なご縁で満たされる毎日。綾さんが長い年月をかけてお店に立つ日々の中で、お花の生命と向き合う、本質的な部分への気づきも養われていきました。

花屋が抱える矛盾とさえも向き合って

華やかなフラワービジネスの世界。その裏側では、お花という生命を扱っている業界にも関わらず、商売の都合によってお花を廃棄することの多い世界でもあります。この裏腹ともいえる業界の矛盾にも少しずつ向き合ってきているという綾さん。

「お花をモノとしてみない。人間と同じ生きているものなんだ、そういう視点を持てたことがひとつの転機になりました。」

例えば10本仕入れてきたお花の中で、なかなかお客様の目に止まらない子(綾さんはお花に愛にこめて、こう呼びます)がいたとすると、その子をお客様にいかに目をかけてお嫁にもらってもらえるよう、あれやこれや工夫する。そうやって一本一本に愛を持って普段からお店に立っているとのこと。

でもブライダルや葬儀など、装花の現場からは、まだ美しく咲いていたとしてもお花が戻ってくることも多く、そういった花たちを押し花にしたり、ご自身の研鑽のためにヨレヨレになるまで練習に使うなどしながら、お花が持つ生命と向き合ってきたという綾さん。現在はもう少し踏み込んで生命のつなぎ方を意識した活動も行なっています。

「廃棄せざるえないお花は、自宅からでる生ゴミなどと一緒にコンポストに入れています。堆肥化したものを自分のところの畑で植物を育てるのに利用しているんです」 ひとつの役目を終えたお花を次の生命へ。この試みは自分のお店だけではなく、飲食の現場なども含めて、生ゴミを集める仕組みをつくって広げていけたらといいなと綾さんは話してくれました。

桜や桃の枝からSunLipsならではの和紙が誕生

「1月から2月にかけて、桃や桜などの枝物がたくさんお店に並ぶ時期は、剪定するときに切り落としたたくさんの枝が出るんです。これらを月山和紙の職人である西川町の渋谷さんにお願いして和紙に生まれ変わらせているんです」

和紙はクワ科の落葉低木である楮(こうぞ)を原料にして作られるのですが、そもそも楮を育てている方も減っている現状があるとのこと。それならばということで、お店ででる桜や桃の枝を貯めておき、綾さんが大鍋で煮込んで皮を剥いだ状態にして、持ち込むんだそう。渋谷さんのもとで、楮70%に対して、桜や桃の枝を30%混ぜ込んで和紙をすいてもらう。表面に、枝のテクスチャを感じる愛おしいオリジナルの和紙が出来上がりました。

この出来上がった和紙のストーリーを子どもたちにも伝えたい。夏休みの時期に、これらの背景を伝えながら、植物の鉢カバーをつくるワークショップを開催しました。

またミモザの枝を使って和紙に仕立てたものは、綾さんの名刺になっているんです。庄内で活動する書道家・點さんに、店名や綾さんの名前を書いてもらったものを版にしてもらい、名刺サイズにカットした和紙に、綾さんが一枚一枚、版を押して手作りしたものなんです。しかも點さんには、植物の根でつくった自作の筆で、松煙墨(松の枝や皮を燃やして煤を採煙してつくられた墨)で用いてもらうという徹底ぶり。たくさんの植物の生命を宿した唯一無二の名刺となりました。 その他にも、お店のワーク〜ショップで、お店で役目を終えた植物を使って染液をつくり、草木染めしたシザーケース(鋏ケース)をつくったり、お客様にちょっと着古したTシャツなどを持ってきてもらって、みんなで草木染めを体験するワークショップ開催するなど、花の生命をつないで、お客様にも体験してもらう試みにもチャレンジし続けています。

手を動かしながら、ご縁をつむぎながら、次を見据えて

若くしてお店を立ち上げ、常に行動あるのみと試行錯誤を重ねてきた綾さん。自分のお店で取り組むことの輪を広げていけたらと思っているようです。

廃棄の問題で心を痛めているのは、お花や枝だけでなく、フラワーアレンジメントをつくる際に使用されるカゴもそう。お客様の元にいったあとは捨てられることがほとんど。しかもそのカゴは、お花を保つために保水性のあるセロファンが貼ってあったり、強度を強くするためにワイヤーが施されていたりと、分別するのも難しい状況です。

このカゴも、お客様が使い終わったあとに、また店に持ってきていただけたら再利用できるもの。例えば市内のお花屋さん全体で、回収してリユースする仕組みがつくることができたら、廃棄を減らせるわけで。同業の花屋さんに投げかけたり、信頼できるいろいろな方に相談したりしながら、その道を模索中とのことです。

前述したコンポストのことも、アレンジメントのカゴのリユースも、綾さんのお店だけでなく、他のお店だったり、お客様だったり、その理解の輪を広げた仕組みをつくることは、果てしない道のりかもしれません。でも前向きに行動する綾さんに多くのお客様が惹きつけられて『SunLips』がどんどん素敵なお店に育っていったように、綾さんが中心になって呼びかけることで少しずつ風向きも変わっていくのかもしれない、お話しを伺いながらそんなことを思いました。

最後に綾さんにブーケをつくっていただきました。お店を長く続ける中で、ようやく『SunLips』らしいスタイルを見出せてきたという綾さん。たくさんのお花たちにやさしいまなざしを注ぎながら、素早く選びとっていきます。

「同じ種類の花であっても、一本ずつ形や佇まいも違って、個性がそれぞれにあるんです。左向きに生えていた子はブーケの左側に配したり、ぎゅっと束ねるのではなく、選んだ子たちがみんなそれぞれに光を浴びられるように束ねることを意識したり、お花と対話しながらブーケをつくっているんですよ」 おしゃべりをしながらも、手は的確に動いていて、またたく間にブーケを仕上げていく綾さん。仕上げに巻いてくれたリボンも、アパレルメーカーからでる残布を綾さん自身が裂いてつくったオリジナルのものだそう。

それぞれの花のありままの姿を生かしつつ、花たちが踊っているようなブーケができあがりました。手渡されると春への希望が膨らむような気持ちに。お花という「生命」を介したコミュニケーション。一つのブーケにも、お店づくり全体にも、綾さんのパッションがかけ算となっているのも実感できる、しみじみと貴重な時間となりました。

SunLips

ADD.〒997-0015 山形県鶴岡市末広町13-5
TEL. 0235-25-7700

公式instagram https://www.instagram.com/sunlips2008/

Written by

マツーラユタカ

物書き料理家。金子健一とともにフードユニット「つむぎや」として活動するかたわらライター稼業も。著書に『お昼が一番楽しみになるお弁当』(すばる舎)など。雑誌nice things.ではコラム「ソウルフードトラベラー」を寄稿中。
2019年に地元である山形県鶴岡市に移住、カフェ&セレクトショップ「manoma」をオープン。Instagramは @matsu_tsumugiya から。

【manoma】
山形県 鶴岡市朝陽町18−8
定休日:火・水・木 (不定休あり)
Instagram: @manoma_tsuruoka
https://manoma-tsuruoka.com/

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