開拓精神の聖地から生まれた「日本ワイン」、剪定枝はスモークチップにアップサイクル

2020年9月、鶴岡市松ヶ岡に、自社畑で収穫したブドウで日本ワイン（※）を醸造するワイナリーレストラン「ピノ・コッリーナファームガーデン＆ワイナリー松ヶ岡」がオープンした。

※日本ワインは「国産ブドウ100％を使用して、国内製造されたワイン」と定義されている。

このワイナリーを語る上で欠かせない、２つのストーリー。

1つめは、松ヶ岡の歴史だ。戊辰戦争に敗れた庄内藩は、絹産業を興し国に報じようと、刀を鍬に替えた旧庄内藩士3,000人が106ヘクタール（東京ディズニーランド2個分）の広大な原生林をわずか58日で切り開き桑畑とした。松ヶ岡はまさに開拓精神の聖地であり、現代鶴岡の礎でもある。

2つめは、イタリアを代表する銘醸地バローロとの縁。2016年、ワイナリー代表の早坂さんは鶴岡市の「ユネスコ食文化創造都市」認定に伴う国際交流のため、イタリアピエモンテ州バローロを訪れた。

「アルプスを望むランゲ丘に広がるブドウ畑が、霊峰月山に抱かれた松ヶ岡の風景と重なり、ワイナリーの設立を閃きました。そして偶然にもランゲ丘のブドウ畑は、松ヶ岡と同様に桑畑を転用したものだったのです。」

翌2017年、早坂さんは松ヶ岡の桑畑を改良し、メルロー、ピノ・ノワール、シャルドネの3品種の植え込みを開始。

その後畑を拡大し、ソーヴィニョン・ブラン、シラー、ネッビオロ等を植え込み、2020年ワイン醸造を開始。重力を利用した醸造手法「グラビティ・フロー・システム」を採用することで、ワインへのストレスを極力減らしている。こうして醸造されたワインは2021年初出荷を迎え、販売から程なくして好評のうちに完売となった。

貴重な剪定枝は、薫製用のスモークチップとしてアップサイクル

「ワインづくりの過程では、剪定枝やブドウの皮などの廃棄物が発生します。ブドウづくりにとって剪定枝はとても大切で、接ぎ木をすることで次の世代のブドウ苗にすることができるのですが、それでもやはり余剰な枝は出てしまう。」

剪定枝をスモーク材にするには、粉砕・乾燥・成形などの加工を経てチップ化する必要がある他、ぶどうの品種により性質が異なるため、品種に合わせた加工を施さなければならない。そこで、鶴岡工業高等専門学校の学生へ薫製用のスモーク材の研究開発を依頼。度重なる研究開発の結果、市内のハム製造業者や料理店で活用してもらえるスモークチップが完成。自社でもブドウ品種の違いが楽しめるスモークナッツを製造している。

ワイン文化は、“農業×化学×アート”を楽しんでいただくもの

「ワインづくりは、ブドウの栽培から醸造に至るまで、芸術性が関係しているとつくづく感じています。私たちは、アートは“個性をつくること”だと考えているのですが、独りよがりの個性ではダメ。お客様に押し付けるようなものではなく、その個性を喜んで受け入れていただいて初めて意味があります。ワインの味はもちろん、歴史、文化、ロケーション、コミュニケーションなど、私たちの個性を楽しんでいただき、多くのお客様にご満足いただきたいです。」

ワインづくりから生まれる、食・農エコシステムに向けた取組み

「ワインづくりから、循環型農業に取り組みたいと構想しています。例えば、ブドウの搾りかすが豚や鴨など畜産の餌となり、そこから出た堆肥で土づくりを行ないブドウづくりに活かす。実現すればこの地域の活性化や雇用の創出にも貢献できます。今は本業で精いっぱいなので長期的な目標ですけどね」

「ワイナリーは、次の世代の若い方に引き継いでもらうための道具として残したい。」と語る早坂さん。

私たちが次世代へ残すべきものは沢山あるが、“残す＝変わらないこと”ではなく、“新たな価値を付加すること”も、サステナブルにとって重要な要素であることを教えられた。

ピノ・コッリーナファームガーデン＆ワイナリー松ヶ岡

山形県鶴岡市松ケ岡のワイナリー。月山を望む丘陵一面にぶどう畑が広がる広大な敷地は、かつて庄内藩士が明治維新に開墾し、桑を植えシルク産業を興した由緒ある場所。日本遺産にも認定されています。施設では、栽培から醸造まで一貫して行い、一つ一つ手摘みされたぶどうで造り込まれる良質なワインを提供。併設のレストランでは地元食材をふんだんに使用したランチも楽しめます。
公式HP https://pinocollina.com/

Written by

モノソノモノ編集部

山形県鶴岡市において営み豊かに暮らす人々を、
「サステナブル・エシカル・ローカル × コンテンツ」の視点で紹介していきます。